Serenade for Strings
Copyright (C) 1998 Y.Kawata

暑くなると、ぶーちゃんは、白クマさんに会いたくなります。
おねだりして動物園に行きます。バスに乗って、街を抜け、知らない街を抜け、
小さな駅を通り過ぎ、広い川原が見えました。鉄橋を渡ります。
バスは小さな町を通り過ぎて、ぐんぐん山に向かいます。
大学を通り過ぎ、しばらく走るとみおぼえのある動物園の裏口がみえてきました。
ぐるっと回ると動物園です。
チケットを見せて一目散に白クマさんのところに向かいました。
「こんにちは、白クマさん、遊びにきたの」「やぁ、ぶーちゃん、よくきたね、今日も暑いね。」
「白クマさん、今日はまだふーっしていないの」「あはは、ぶーちゃん声が大きいよ」

そうです、白クマさんは、暑くなると白い毛皮を脱ぐのです。
人の気配がなくなると、ふ〜っと、大きなため息をつきながら、ゆっくりと、重い毛皮を脱ぎます。
脱いだ毛皮は、ほこりやあせの臭いがします。時々汚れています。綻んでいるときもあります。
ざぶーんと、プールに飛び込みます。あぁ、いい気持ち、う〜んと大きな伸びをします。
のんびり、のんびり、ひと泳ぎします。ざぶん、ちゃっぷん、ざーっ、ばしゃばしゃ。
それから、思い思いにお散歩したり、手をつないだり、肩を組んだり、
見つめあったり、石段に腰掛けたりして涼むのです。
小さな星がきらきら輝いています。時々風のささやきが聞こえます。
今日の喧騒が遠くに感じます。あちらで、こちらで、小さな楽しそうなおしゃべり声が聞こえます。
もうずーっと毎日こうして涼んでいるのに、遠くの風景が、昨日とどこか変わってしまったようにも、
懐かしくも、固まってしまっているようにも見えます。
あのイルミネーションはこんなだったけ?あそこは、あんなに明るかったっけ?

朝を迎えると、風を通して軽くなった毛皮を着ます。
毎日おんなじ毛皮を着ているのに、ぶーちゃんには、きれいな毛皮に見えます。

「白クマさん、いつも真っ白だねっ」

「ぶーちゃん、もっと近くで見てごらん」

 

おはなし5